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水素を使った燃料電池車FCV 普及を阻む問題とは

(出展:TOYOTA)
先日、筆者が自宅近くをスクーターで走っていたところ、となりの車線にあまり見かけたことのないクルマを見つけました。一瞬エアロパーツを装着したプリウスPHVにも見えたのですが、明らかに形が違っている。そこで、クルマの後ろにある車名エンブレムに目を向けてみると、そこにはMIRAIと書かれています。なるほどFCVのトヨタMIRAIだったのですね。
 
地元で見かけたのははじめてです。でもMIRAI自体は、この時はじめての遭遇ではありません。その登場からもう3年以上経つのですでに何度も見る機会がありました。しかし、それはモーターショーなどに展示されている車輌や、こんな東京のはずれではなく都心部を走行している姿。
 
よく考えると、発売から3年以上もたっているのに(東京のはずれとはいえ)ほとんど見かけない、というのもちょっと不思議ですよね。何で見かけることがないのだろう?そんな疑問をもったので、MIRAI含めFCVが実際日本でどれくらい売れているのか調べてみました。
 
残念ながら、最新の販売台数データは見つかりませんでしたが、どうやら思いのほか少ないということは分かりました。2017年の6月時点で、国内で販売されたFCV(MIRAI以外も含みます)はわずか2200台ほど。たったこれだけです。FCVの中ではおそらく売れているはずのMIRAIですが、FCV自体がコレしか売れていないのですから、MIRAIでさえ見かけないのは当たり前ですね。
 
 

二酸化炭素を発生しないとてもクリーンなFCV

 
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でも、なぜこのようなことになっているのか?あれほど期待を受けマスコミなどでもかなり取り上げられていたFCVなのに、その普及が進んでいない。不思議ですよね。なぜなのか、それを知るにはまずFCVがどのようなものなのかを理解しておく必要があるでしょう。
 
そもそもFCV(Fuel Cell Vehicle/燃料電池車)とは、その名前からも想像できますが、簡単にいえば燃料電池を利用した自動車のことです。
 
燃料電池とは、化学反応によって水素などが持つエネルギーから電力を取り出す電池のこと。ただ燃料といっても実際に水素を燃やしているわけではありませんし、電池と名が付いていますが電気を貯めておくわけでもありません。
 
その化学反応で都度発電しながら、その電気を走行エネルギーに使っているのです。結果的に電気力でモーターを駆動しているので、ようは電気自動車(EV)の一種ともいえますね。肝心の燃料には水素以外にも炭化水素、アルコールなどが使われますが、MIRAIなどのFCVに使われている燃料は基本的に水素です。
 
では、その水素からどうやって電気を取り出しているのか。簡単に説明します。皆さんは、中学校の授業などで水の電気分解の実験をしたことはありませんか。水に電気を通すと水素と酸素が発生するというあれです。
 
燃料電池は、シンプルにいうとその逆。水に電圧をかけると水素と酸素が発生するので、逆に水素と酸素を化学反応させることで水と電気が発生させているということです。
 
燃焼ではなく化学反応なので燃料電池で電気を発生させても、排出するのは水(水蒸気)だけ。温暖化の原因とされているCO2(二酸化炭素)は排出しません。つまりFCVは非常にクリーンなシステムを使っているのですね。だからこそEV以上に期待されていたわけです。
 
 

FCVにはメリットが満載。でも普及が難しいその理由とは

 

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さらにEVに比べるとエネルギー補給に時間がかからないという点も特徴です。EVはバッテリー(蓄電池)を使っているので、電気がなくなったらその都度充電しなくてはいけません。充電は、ご存知のようにガソリンを給油するようにスピーディには行えない。あんな小さなスマホを充電するのにだって数十分以上と結構な時間がかかります。それが大容量の自動車用蓄電池となればどうしても時間がかかってしまうのは分かりますよね。
 
しかし、水素は高圧の気体をクルマのタンクに移し変えるだけ。満タンにするにも数分で済みます。その上航続距離だってEVよりも、ガソリンエンジン車よりも長い約650km。使い勝手の面でもEVより魅力的なのです。さらに、そもそもの燃料である水素は、石油などと違って地球上にほぼ無限にあります。酸素も大気中から取り入れればいい。枯渇の心配がないというのも大きなメリット。
 
それに、電気と違ってタンクにつめれば保存しておくことも、簡単に運搬することだってできます。走行中は音だって小さいですし、基本は電気とモーターで走るので加速性能にも優れています。
 
さらに、MIRAIの場合、燃料電池と合わせてバッテリー(蓄電池)も搭載されています。加速時にはその電力も併用(ハイブリッドということですね)していますし、減速時には回生エネルギーをこのバッテリーに貯めておくことで効率よく電気を利用しています。
 
このようにFCVは良いことだらけなのです。クリーンで効率もよい。そうなのであれば、量産の目処が立てばきっと普及は加速していくはず…、だったらいいのですが。残念ながらそうは簡単にいきません。
 
なぜなら、まず先に説明したようにFCVには非常に高度なシステムが搭載されていて、高圧に耐えられる水素タンクも必要。つまり非常にコストがかかるのです。
 
PHVのバッテリーやモーターなど以外、既存の量産車のパーツを使用することもできないので、大量生産も進まない。MIRAIの値段は700万円です。これって現実的に安くはないですよね。普通に高級車の価格です。クルマの購入にこれだけの金額を払える人はごく一部でしょう。
 
でも、これだけの複雑なシステムならば、その値段は本来ならば桁がもう一つ上でもおかしくない。むしろトヨタだからこんな価格で発売することできたといってもいい。
 
700万円(実際には補助金があるので500万円程度で購入できる)はむしろバーゲンプライス。普及を目指してかなり頑張っている価格なのです。とはいえ現実的に買えるかどうかは別問題。現状これ以上下げるのは厳しいでしょう。量産も難しいので値下げも期待薄です。
 
MIRAIを街中でみかけることがないのは、このように価格が高い上、量産が難しいため普及させたくても現状では簡単にはできないから。売りたくてもクルマそのものをたくさん作れないのですから仕方がありません。
 
 

中々整備が進まない水素ステーション

 
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さらにFCVには燃料である水素に関して難しい問題があります。それは水素のコストが高く扱いが簡単ではないからです。水素は地球上に無限にあると前述しました。また電気分解で水から取り出すことも可能です。だったらタダでいくらでも使えるのではと思いますよね。
 
でも、実際にはそんなに簡単ではありません。燃料として使えるように水素を生産するには様々な工程が必要なのです。例えば水から電気分解で水素を取り出すとします。すると、電気分解ですからそれには膨大な電力が必要になってしまいます。そのコストは非常に割高でむしろ発電に使用する燃料をそのままエンジンの燃料使ったり、EVに充電して使ったほうが効率的にもコスト的にも安い。これでは意味ありませんよね。
 
そうでなく、半導体の工場や化学プラントなどの製造過程から発生する副生成物としての水素を取り出すという方法もあります。しかし、その水素の不純物を取り除き、タンクに圧縮して運搬するとコストはやはりガソリン以上。
 
ほかにもLPガスや石油、天然ガスといった化石燃料を分解して作ることもできますが、これは本末転倒ですね。化石燃料が使うことになりますし、その生産過程ではCO2も発生してしまいます。
 
さらに、その水素をタンクに充填するにもエネルギーが必要です。水素はとても軽く密度の低い気体ですから、タンクの中にできるだけたくさん積むにはギュッと圧縮して詰め込まなければなりません。どれくらい圧縮するのかというと、例えばMIRAIの水素タンクは70Mpa(700気圧)です。つまり大気の700倍に圧縮して詰め込んでいるのです。
 
水素を700気圧に圧縮するにはもちろんエネルギーが必要です。つまりそこにも電力などが使われるということ。その圧縮のためのエネルギーも大きな負担になります。
 
また、圧縮した水素は、インフラである水素ステーションに運びそこで充填されますが、その水素ステーションを作るのにも莫大なコストがかかります。高圧の水素燃料を貯蔵するタンクが必要ですから当然ですね。そのコストは1カ所でだいたい5億円以上と言われています。
 
水素ステーションは現状どれくらい整備が進んでいるかというと、日本全国ではたった100ヶ所ほど。これは建設に莫大なコストがかかる上にその投資を回収できるほどFCVが普及していないためです。でも水素ステーションがたくさんできないとFCVを売ることもできませんし…。この問題をどうすればいいのか、なかなか一筋縄ではいかないでしょう。
 
 

急激な普及は難しいけれど未来に向け期待できるFCV

ただ、水素自体の生産に関しては、半導体の工場や化学プラントなどで発生し、現状無駄に燃やされているだけのものを効率よく活用できれば、徐々にコストを安く抑えることは可能でしょう。また自然エネルギーを使って水素を作るという方法あります。となればあとはインフラの問題です。水素インフラの構築ですね。
 
これに関しては2018年3月5日、トヨタや日産、JXTG、出光など11社がFCV向け水素ステーションの本格整備に向け、「日本水素ステーションネットワーク合同会社(Japan H2 Mobility、略称JHyMジェイハイム)」を設立したという発表がありました。2021年度までの4年間で水素ステーション80か所の整備を目標としており、その後もさらなる拡張を目指すとしています。
 
大々的な発表の割にたったの80ヶ所?とも思えますが、着実に建設が進めばFCVの普及も少しずつ進んでいくはずです。これには期待したいですね。
 
FCVはよくEVと比較されます。しかし、単純にライバル関係として捉えるべきではないと筆者は考えています。次世代のエコカーの選択肢としてEVとFCVが共存するのが理想だと思います。それぞれに特徴があり、技術的には共通する部分あります。また、水素ステーションに燃料電池を設置しそこでEVを充電できるようにすれば、インフラなども補完できる関係だと思っているからです。
 
もちろんFCVには、EV以上にまだまだ様々な技術的な問題もありますし、超えなくてはならないハードルも少なくないでしょう。しかしエコであり、とても優れた技術であるのは間違いありません。
 
EVほど急激に普及が進むのは難しいでしょうが未来に向けて技術の発展には期待すべきだと思います。我々も、もう少し長いスパンで見守ってゆく必要があるのではないでしょうか。