TEL.03-3586-1522info@car-auc.jp

ポルシェをあきらめもはや絶滅?空冷エンジンとは

クルマの動力源として代表的なものには内燃機関のエンジンや電気モーター(古くは蒸気機関などもありましたが)があります。徐々に電気モーターを使ったEVや燃料電池車(動力としてはモーターですね)、エンジンとモーター、二つの動力を効率よく利用するハイブリッドの比率が高まってはいますが、主流は今もガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどのレシプロタイプの内燃機関であることには変わりありません。
 
そんなレシプロタイプの内燃機関エンジンは、ガソリンや軽油といった燃料に空気を混ぜ、それを圧縮してからシリンダーの中で点火(ディーゼルは高い圧力で圧縮することで自然着火させます)爆発させ、その発生した燃焼ガスの圧力でピストンを上下させ、タイヤを回転する力を生み出しています。つまり燃料を燃やすことで発生した熱エネルギーを運動エネルギーに変換しているという事です。
 
ガソリンや軽油などの燃料を燃やすことで得られる熱エネルギーを、全て動力に変換することができれば無駄がなく理想的ですなのですが実際にはそうはいきません。ピストンとシリンダーの摩擦抵抗に、排気熱、トランスミッションやタイヤの駆動の際のフリクションに加え、エンジンそのものにも熱としてそのエネルギーの多くが吸収されてしまうのです。
 
例えばガソリンエンジンの場合、燃料の持つ熱エネルギーの約30%程度、最も効率の良いエンジンでも最高で40%程度しか動力に使うことができません。つまり残りの60~70%が熱として排出、またはエンジン本体に吸収され無駄になっているのです。
 
その熱は無駄に空気中に放出されているだけでなく、エンジンに対して大きなダメージを与える原因にもなります。エンジンは設定されている温度以上に高温になりすぎると例えばオーバーヒートといった様々な不具合が発生してしまいます。だから高温になりすぎないように適切に冷却しなくてはならない、つまり冷却が非常に重要なのですね。
 
 

効率よく熱を移動させるには水冷式の方が効率に優れる

 
8f7597e568ec6653471a6e79754cf2e9_s
 
熱くなったエンジンはそのままにしておけば、オーバーヒートを起こし最悪エンジン本体が熱で変形したり、高熱によるシリンダーの油膜切れで焼き付きなど重大なダメージを引き起こします。現在自動車エンジンで、主に使用されている冷却方法は以下の2つ、空冷式と液冷(水冷)式です。それぞれ、熱を運ぶための媒体(空気か水か)が大きく違い、主流は水冷式。構造は複雑になりますが、冷却水とラジエターを使いエンジンの内部に冷却水を循環させることで熱を効率的に移動させ、ラジエターから空気中に熱を放出することで効率よくエンジンを冷やすことが可能です。
 
直接水で冷やしているのではなく、エンジンの熱を、冷却水を媒体にしてラジエターに移動し、ラジエターの長い水路を移動する間にラジエターフィンに冷えた空気を当てることで冷やし、空気中に熱を放出しているということですね。現代のほとんどのクルマがこの方式を採用しています。
 
空冷式のエンジンはというと、非常にシンプル。エンジン(のフィン)に直接、風(空気)を直接当てることでエンジンの熱を空気中に放出しています。走行していれば走行風がエンジンにあたるのでエンジンを冷却することができるというものです。
 
残念ながら空冷エンジンは今や採用しているクルマはほぼ見当たりません。長年空冷式にこだわっていたポルシェ911シリーズも、1997年のtype993を最後に水冷式に変わりました。またメキシコで生産されていたフォルクスワーゲン・タイプ1、いわゆるビートルも排気ガスの規制に適合させることができず2003年に生産終了となりました。つまり現在はほぼ全滅してしまいました。ちなみにバイクの世界には今も空冷式エンジンが残っており、空冷エンジン独特の造形や、クラシカルなイメージから一部の人たちに人気となっています。
 
 

空冷エンジンがすたれてしまった理由とは?

 
7ea73b03e5e350eefdc7c96282085604_s
 
では空冷エンジンはなぜ消えたのでしょうか?そもそも水冷に対して空冷エンジンのメリットとはなんだったのでしょうか?それは水冷式に比べて構造がシンプルに済みエンジンそのものを軽く作ることができるということでしょう。またシンプルな分製造コストを抑えることもでき、整備の際にも構造が簡単なので手間が減るといったこともメリットです。
 
逆にデメリットは?水冷式に比べると冷却媒体に空気を使用するために、冷却効率が高くないということです。そのためエンジンの高出力化を追求してゆくとエンジンが発する熱に冷却が追いつかなくなることです。
 
例えばレースの世界でエンジンのパワーを追求してゆくと、その分エンジンからの熱はより高まります。当然その分冷却性能も上げなくてはいけないのですが、空冷ではおのずと限界があり、同じ排気量のエンジンで比較すると、出力的にも不利になるのです。ですのでレース車両で空冷エンジンを選択するのは自分自身で足枷をするようなもの。そんな車両はほとんどありませんでした。ポルシェを除いてはですが。
 
そう、ポルシェは90年代後半まで、独自の優れた技術で、空冷ながら水冷エンジン搭載のライバル車をレースで打ち負かしていたのですからその点は驚きです。しかしそんなメーカーは他にはありませんでした。
 
パフォーマンス面に加えて、現在のクルマに必須とされる排気ガスのクリーン化にも空冷化は対応が厳しいとされています。排気ガスをできるだけクリーンにするためにはエンジンの冷却を緻密にコントロールし、燃焼室の温度を一定に保つことが求められます。しかし空冷式では、空気で大ざっぱにエンジン全体を冷やすことしかできません。水冷のようにエンジンの部位ごとに緻密な冷却のコントロールができないため、現在の厳しい排ガス規制をクリアすることが難しいのです。
 
 

ポルシェさえも断念…。騒音規制にも対応が難しかった

 
911_Carrera

(出典:Wikipedia/ファイル名:911 Carrera.jpg/投稿者:Rémi Duvergey)

 
また、水冷エンジンはエンジンがウォータージャケット(冷却水の水路)で覆われており、それによって遮音効果が得られます。つまり空冷エンジンよりも静粛性が高いのです。しかし、エンジンルームに空気の抜ける隙間が必要なうえ、むき出しの空冷エンジンは、エンジンからのノイズも大きい。そのため厳しい騒音規制への対応でも非常に不利。静かにするためにエンジンを覆えば冷却能力がスポイルされ、冷却効果を高めると騒音が大きくなる…。こういったこともあって最後まで空冷にこだわっていたポルシェも様々なハードルのクリアは困難、と判断し、空冷エンジンはやめ空冷エンジン搭載車は絶滅してしまったのですね。
 
しかし、そんな空冷エンジン搭載のポルシェ911シリーズは、今もカーマニアの間では垂涎のクルマ。非常に高く評価され、むしろ以前よりもその人気は高まっているといわれています。そのため、水冷エンジン搭載の現行911よりもむしろ高値で取引されることも珍しくありません。特に欧米ではその人気は高まる一方で最近では、日本国内に残っている空冷911(日本のオーナーは丁寧に扱っているので状態が良いそう。)がかなりの数欧米にいわばUターンして輸出されているのだとか。
 
ポルシェのアイデンティティともいえる、乾いたエンジン音を発する空冷の水平対向6気筒エンジンは、マニアにとってはやはり憧れ、一度はオーナーになってみたかったという人は今も世界中にいるわけです。
 
空冷エンジン搭載車は、もはや新車としては絶滅してしまったかもしれません。しかし、最後まで空冷にこだわり、限界まで進化を続けた空冷エンジン搭載ポルシェ911は今もその多くが現役で走っていると言われています。一説には歴代ポルシェの残存率(新車販売から現在まで廃車にならず残っているということ)は50%を超えているとか。使い捨てのように乱暴に扱われる現代のクルマにあってこれは特別な例でしょう。
 
すでに絶滅したともいえる空冷エンジンですが、全てが消えてなくなったわけではありません。稀少になったからこそ、むしろ大切に扱われ続け、未来までより長く愛され続けてゆくことになるのではないでしょうか。
 
もしあなたが、空冷のエンジンの独特のフィーリングを一度味わってみたい!と思うなら、今がその最後のチャンスかもしれません。911は無理でもVWビートルファミリーならなんとか手に入れられるでしょう。でもすでに稀少車として世界中で注目されているので、オーナーになりたいのなら少しでも急いだほうがいいかもしれませんよ。