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クルマのボディは鉄(スチール)が常識 なんでもっと軽い素材にならないの?

クルマは、小さいよりも大きい方が、当たり前ですが居住空間も広く取れ、エンジンやEV用のバッテリーを搭載するスペースも余裕をもって確保できます。また安全性の面でも、クラッシャブルスペースが大きくとれるのですから乗員の安全性の確保にも有効です。さらにデザインも自由度が増して、大胆なボディラインを創り出すことも可能になるなど、大きいことのメリットは少なくありません。そのせいか昨今は国産車も、欧米のクルマのクルマに習って大型化する傾向がみられます。
 
とはいえ、さすがに軽自動車は規格でサイズが明確に決まっているのでそれには当てはまらないでしょう…、と思いきやそうでもないようです。幅や長さは拡大できませんが、制限の緩い天地方向にボディを拡大させた、天井の高いトールワゴンタイプが主流になってきています。
 
そして、普通車に関しては、全幅1700mmを超える3ナンバークラスの車幅が当たりまえになってきていますよね。コンパクトカーといいながら全然コンパクトじゃないよな、的なクルマも正直少なくありません。スペース効率や安全性、デザイン性の面で、車体の大型化にはメリットが大きいのは分かります。ゆえにそれが求められているのですが、一方でそれに反するように、現代のクルマには軽量化も強く求められています。
 
 

性能面、環境面を考えてもクルマの軽量化はメリットが大きい

 
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クルマの軽量化は、性能面や環境面を考えても非常に重要なこと。軽ければ力学的にも慣性質量が減少し、加速性能や制動性能はともに向上します。また、コーナリング時の遠心力も減りますから、より速くコーナーを抜けることが可能です。このようにその軽さは走行性能にダイレクトに跳ね返ってくるものなのです。
 
また環境面でも、軽ければより小さな力でクルマを走らせることができる、つまり燃料の消費を減らせるのですから燃費も向上します。加えて制動時の負荷も減りますから例えばブレーキパッドやディスクなどといった部品の消耗も減る、つまりや廃棄物を少なくできる。軽量化は非常にメリットが大きく、その方向に進化が進むのは当然とも思えます。しかし、それなのに車体は大型化傾向にある。矛盾していますよね。これを解決するにはどうすれば良いのでしょうか?
 
 

軽いアルミでクルマをつくれば問題は解決するのか

 
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(このファイルはクリエイティブ・コモンズ 表示-継承 2.0 ライセンスのもとに利用を許諾されています。ファイル名:HondaInsight.jpg/投稿者:dave_7)

 
軽量化するなら従来よりも軽い材質でクルマを作ればいいのでは?と単純に考えるとそうなりますよね。しかし、一部例外はありますが、国産、輸入車かぎらずクルマのほとんどはそのボディは鋼板でできています。つまり鉄ですね。
 
鉄にはどんなイメージがあるでしょう。硬い、磁石にくっつく、錆びる、重い、あまり高価でない金属、といったところだと思います。少なくとも軽いといったイメージはありませんよね。対して、軽い金属素材の代表と言えば?良く知られているのはアルミやチタン、マグネシウムなどだと思います。
 
この中でクルマのボディに使われている素材となるとアルミ(マグネシウムもホイールなどには使われています)です。鉄より軽く強度も十分あって加工もしやすい。そんなこともあって、特にクルマのパーツの中では重量のかさむエンジンブロックなどに、アルミがよく使われています。ならば、そんなアルミをクルマのボディにも大々的に使えば、軽量化ができて全てに都合が良いのでは?当然そう考えますよね。
 
でもモノコックボディ全体に使われる例はさほど多くありません。一部の高級車や高価なスポーツカーが採用するくらい。またはボンネットやルーフなどボディパネルの一部にのみ使用されるだけで、量販車種でアルミボディを持つものというのは、ホンダのハイブリッドカー・初代インサイトくらいで他にはほぼ見当たりません。それはなぜなのでしょうか?
 
まず、クルマのボディに使用する場合、鉄とアルミにはそれぞれにメリットとデメリットがあります。まず鉄のメリットは価格が安く加工しやすいこと。さらに強靭でありダメージを受けても板金加工や溶接で修正できるということです。また酸化、分解されれば土に還るとてもエコな金属で、リサイクルにも向いています。
デメリットはメリットでもありましたが酸化(錆び)しやすく、重量が重いということですね。
 
対してアルミのメリットは、鉄に比べるとなによりも軽いということ。さらに柔らかく加工もしやすいうえ比重はおよそ鉄の3分の1程度。柔らかいので強度を得るには厚みが必要ですが、鉄と同じ強度を得るのには3分の2程度の重量で抑えることができます。
 
さらにアルミ缶リサイクルで分かるようにリサイクル率が高いのも大きなメリットです。デメリットは素材自体が鉄よりも高価ということ。生産や加工に、多くの電力が必要でコストがかかってしまうのです。加えてダメージを受けた場合、鉄のように簡単に修理することができないということも大きな問題でしょう。
 
 

アルミボディにダメージを受けると鉄よりも何倍も修理費がかかる!?

 
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(出典:Wikipedia | ファイル名:2009 Ford F-150 XLT.jpg/投稿者:IFCAR)

 
アルミだって修理は可能です。でも、それには専門の高い技術が必要で、修理にかかる金額は鉄でできたクルマを修復よりも大幅に高価なものになってしまうのです。鉄ならへこんでもバーナーで炙りハンマーでたたいて元に戻すこともできますが、アルミは変形してしまうと修正が困難。バーナーで炙れば溶けてしまうし、ハンマーでたたくと伸びてしまいさらにひどいことに。
 
専用の修理用機材や高い技術を持った職人であれば修理は不可能ではありませんが、それには時間と手間、コストがかかります。ですから、多少のダメージでもたいていパネルごと交換してしまったほうが手っ取り早いのですね。では、実際修理コストはどれくらい違うのでしょうか? アメリカでこんな実験をした人がいました。こちらの動画です。
 
修理費用が高額になるのでは?と登場時からアメリカ市場で噂されていたフォードのF150というアルミボディのピックアップトラックを、自ら購入したうえで、交換が難しい(つまりダメージを受けたら修復しなくてはいけない)アルミで出来た荷台部分をハンマーでたたき、へこませて、それにどれくらいの修理費がかかるのかを検証したというものです。
 
すると、その修理期間はスチール製のボディよりも4日多くかかると言われ、さらに修理にかかる人件費だけでもスチールボディなら600ドルで済むところをアルミので、4倍の2400ドルになる、とディーラーから連絡を受けたのだそうです。
 
それでも最終的にはその人件費を半額(といってスチールボディの2倍)にしてもらえたそうですが、総額では結局4,138.44ドル(約45万円 2017年6月のレートで換算)の修理費を請求されたとのことです。凹みを修理しただけでこの大金です。アルミボディ、やっぱり修理費用は半端ないようです。それを知ってしまうと、気軽にアルミボディにすればいいじゃないか、などとは言えませんよね。
 
とはいえ軽量化にはアルミは欠かせない、ということで、全部ではありませんが、最近はボディの一部にアルミを採用するクルマが増えてきているのです。
 
 

鉄なのに軽量化が可能な高張力鋼板(ハイテン鋼)とは

でも鉄も決して昔のままではありません。鉄(というか鋼板)も着実に進化しています。昨今その使用が拡大しているのが通常の鉄(鋼材)よりも強度が高い高張力鋼板(ハイテン鋼)や、さらに強度を高めた超ハイテン鋼です。一般的な鋼板よりも高い強度を持ち、パネルの板厚を薄く軽量化しても、十分な強度を確保できるのがこのハイテン鋼なのです。
 
このハイテン鋼を使用すれば従来よりも薄くてすみ、その分材料を減らせるので軽量化も可能です。通常の鋼板よりも値段は高いですが、アルミほどではありませんし、鉄なのでダメージを受けた場合の修理も困難ではありません。ボディの全ての部位に向いているわけではありませんが、うまく使用することでコストをあまり押し上げずクルマを軽量設計できるということで、積極的な導入が進んでいるのです。
 
鉄とアルミ、その特性をうまく理解した上で賢く使い分け、メーカーが軽量化を実現しようと涙ぐましい努力をしているのですね。軽くするならアルミを使えばいいじゃん!と単純にはいかないのです。
 
他にもアルミよりも軽いFRP(繊維強化プラスチック)や、いわゆるカーボンと呼ばれるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの素材もボディの軽量化には有効です。とはいえパネルをプレス機で大量生産できる鉄やアルミとは違って、ともに大量生産には向いていません。
 
また、非常に軽量で強度も高いため、F1のボディにも使用されているドライカーボンとなると、高圧窯で焼き固める必要があってそのコストは莫大。例えばボンネット一枚でも50万円オーバーは当たり前ですから、量販車種に簡単に導入できるものでもありません。高級車なら使用は可能でしょうが、量販車ではオプションパーツなどで設定する程度、ボディパネルに全面的に導入するというはかなり難しいでしょう。
 
そうなるとやはり鉄が頼りになります。鉄は古くからクルマの素材だけでなく、武器や農具として人類に使われてきました。その加工や合金化のノウハウの蓄積だってはかりしれません。確かにアルミやカーボンに比べれば重いかも知れませんが、ハイテン鋼など薄いのに強度の高い新たな鋼板も導入されており、着実に進化しています。目新しさがないからといっても決して過去の素材ではないのです。
 
またコストの低さやリサイクル性の高さ、さらに修復のしやすさなど、他の素材を超えるメリットも大きく、アルミやカーボンなどの他の素材が、まるっきり鉄に代わるのはまだまだ難しいでしょう。
 
もちろんクルマの軽量化は、今後も重要な課題として自動車メーカーが取り組んでゆく問題です。材料だけでなく構造やデザイン、メカニズム、あらゆる面でクルマには進化が求められているのです。もしかしたら鉄に変わる新たな素材というのが今後登場するかもしれません。しかし、それまでまだまだ自動車のボディを形作る主役として活躍してもらうことになるのでしょう。